第1章 貴女は僕の太陽
これほどまでに過保護に扱われてきたさんではあるが、幼い見た目に反して、年相応に、いやそれ以上にしっかりとしていて、穏やかで、かつ優しかった。
話し方もゆったりとしていて、そこは先生と似ている。さすがは兄妹といったところか。
容姿の面では…あまり似ているとは言い難いが、破顔して笑った時だけは、笑顔がそっくりなのである。
ここが兄妹というものの不思議さで、全く似ていないようでいて、驚く程似ている。
しかし、先生が破顔して笑うことは滅多にないので、まだ一回しか見たことがないのだが。
「ジェノス君は今日何か予定あるの?」
「いえ、俺は特にありません。強いて言うなら、先生に教えを請いたいです」
「えー、今日は俺、読みたい漫画があるから」
俺が顔を向けると、先生は面倒くさそうな顔をして布団に倒れこむ。
そんな先生にさんがニコニコしながら、膝でいざり寄っていった。
「お兄ちゃん、たまには皆で遊びに行こうよ!」
「えー」
不服そうなセリフを吐きながらも、先生はすでに上体を起こしている。
「ねっ!お願い」
極めつけに、さんが顔の前で小さな手を合わせて見せた。
「よし、行くか」
すっくと立ち上がった先生は、先ほどまで読んでいた漫画を何のためらいもなくテーブルに置くと、代わりに上着へと手を伸ばした。
(…なんということだ。相変わらず、先生はさんには甘い。だが、あんな仕草をされたのでは、誰だって邪険には扱えないだろう)
「ジェノスくんも早く!」
玄関へと向かうさんが、花のような笑顔を向けて俺を呼ぶ。いつの間にか、俺もメンバーに入っていたらしい。
まぁ、先生が行くのであれば、弟子の俺が追従することなど当然なのであるが、あまりにも自然にメンバーに加えられていたことが、何故だかとても嬉しかった。
「はいっ」
俺も先生と同じだ。この笑顔には、抗うことなど到底できはしないのだ。