第9章 君の手をひいて
「俺さ……
昨日タイガーとバーナビーに捕まった奴らの仲間なんだよ。
運転手役だったから車の中で待機してたんだけど、
誰も戻って来やしねー。
まあ自分だけ捕まらなかった事に
満足すりゃいいのかもしれねーけど………
やっぱどーしても手に入るハズだった大金が惜しくてさー。」
「………だから私を拐ったの?」
「そーゆーコト!
察しが良くて助かるわ。
バーナビーやタイガーと付き合いがあるなんて
アンタ、イイトコのお嬢さんなんだろ?
だからちょーっと身代金を戴けねーかと思ってさ。」
愉快そうに語る男とは裏腹に、何故か私は冷静になっていく。
だって私には…………
「私……孤児なんです。
孤児院で育って、今でもブロンズステージの
安アパートで独り暮らしで……。
だから私自身にもお金なんて無いし、
当然身代金を払ってくれる人なんて誰も居ませんよ。」
「ハアアッ!?」
説き伏せるように穏やかに話す私を見て、今度は男の方が明らかに動揺し始めた。
「マジかよ……」
なんて爪を噛みながらイライラと歩き回る男を私はじっと見つめる。
5分くらいそうしていただろうか……
「あ!」
男は何かを思い付いたようで、私に近付いて来た。
「じゃあ、バーナビーだ。
バーナビーに払ってもらおうぜ!」
「………え?」
「あんな風にデートしてたんだ。
アンタ、それなりにバーナビーに気に入られてるってコトだろ?
アンタとバーナビーのスキャンダルをネタに
アポロンメディアを脅すってのもいいな。」
…………ダメ。
そんなの絶対にダメだ。
バーナビーに迷惑を掛けるのなんて、絶対にイヤだ!
それに……バーナビーやアポロンメディアが私の為に脅しに屈する理由なんて何一つ無いんだから……。