第6章 平穏な日々に嵐はやってくる~トド松
「だいぶ良くなってきたから、そろそろ戻ろうトド松。ごめんね、つき合わせちゃって」
「別に。こんなところで倒れられたりしたらそれこそ迷惑だし、はい、ぼくの腕捕まっていいよ」
「え、いいよ、大丈夫。一人で歩けるよ。みんなに見られたら誤解されちゃうかもしれないしさ」
「そんなこと気にしなくていいから。フラフラしてる女子を置いて一人で戻るほうがよっぽど印象悪いんだけど」
そう言われると、確かにそんな気もしてくる・・・
私が渋々トド松の腕を掴むと、2人で席のほうへと歩き出す。
う、やっぱり動くとまだちょっと気持ち悪いかも・・・頭痛もしてきちゃうかもぉぉぉ
そんな私の気持ちも手に取るようにわかるのか、至近距離で今度は直接ため息が聞こえる。
すいませんねぇごめんなさいねぇ?
おぼつかない足取りで個室の前まで辿り着き、トド松が戸を開けようと手をかけると、中から聞こえてきた会話の内容に、私もトド松も思わず動作が止まってしまった。
「マジマジ。松野、アイツKOの学生なんて嘘ついててさ、ありえなくね? 普通そんなすぐバレる嘘つくかって」
「おい、やめろよ。楽しくねぇしそんな話」
「KOの学生どころかアイツ、ニートだから。『何も無し男』だから。図々しいにも程があるよな~」
「やめろって!お前ちょっと酔いすぎだぞ」
「悪いのはアイツだろ? 俺は本当のことしか言ってねぇから」
完全に酔いが回っているのだろう。
お酒というのは恐ろしいものだ。これほどまでに人を変貌させてしまうとは・・・良い人そうだったのになぁ・・・
いや、もしかしてお酒で本性が出たのかな?こっちが素なのかな。
まぁ
そんなことはどうでもいいですけどね。
「そのくせ手は早くて女と見るやすぐLIMEフリフリだぜ?俺が前狙ってた子ともいつの間にかID交換してるし」
「つまるところただの嫉妬じゃねぇか。てかホントにもうやめろよ。俺らだって聞いてて気分良いもんじゃないしさ」
こっちの人は良い人だな。常識がある、ちゃんとしてる人。お酒に飲まれない人。
しかし、嫉妬乙男(今私が命名した)は、お酒でスッカリ気が大きくなっているのだろう、トド松への文句は止まる様子がない。