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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第3章 秋霖 ②







華族の子弟が通う学習院において、木兎光太郎は武道に優れていることで有名だった。

武士の世ならさぞかし勇名を馳せていただろう。
そう称されるほど、剣術では学院のみならず全国でも五本の指に入る光太郎。

しかし、同級生の牛島若利はさらに三本の指に入る腕前で、学業でも優秀、そのうえ木兎家より爵位が高い侯爵家の嫡男とくれば、世間の注目はどうしたって光太郎よりも若利に集まる。


「木兎貴光の娘、八重でございます」

約束の時刻、八重は牛島邸の客間で若利の母親と初めて対面していた。

明治維新前は公家だったという牛島侯爵の邸宅は、西洋的な木兎邸とは違い、重厚感溢れる日本家屋。
貴族院でも強い発言権を持つ牛島家の立派な公家屋敷を目の当たりにした瞬間、赤葦が八重に上等な着物を用意した理由がよく分かった。

「八重さん、よくいらしたわね」

牛島侯爵夫人・定子は凛々しく鋭い顔立ちの美人で、すでに隠居している先代の唯一の実子。
当代は婿養子に過ぎず、公私ともに牛島家を動かしているのは彼女という噂だ。
上品な紫の着物をまとい、背筋を正して座るその姿は貫禄すら漂っていた。

「それではさっそく始めましょう」

定子は女中に切り花と花器を持ってこさせると、手本となりながら八重に花の生け方を教えていく。

「もう少しお花の差し位置を横に広げて」

障子を開け放した座敷で緊張しながら花を生ける八重に、定子は見定めるような視線を向けていた。
しかし、慣れない手つきながら出来上がったその作品を見て、僅かに笑みを見せる。

「外国でお育ちだからどうかしらと思っていたけれど、素養がおありなのね」

紅葉で彩られた庭に、一定の間隔で響くこけら落としの澄んだ音。
公爵夫人は八重が生けた菊を見て小さく溜息を洩らした。

「流石は貴光様の御息女だわ」
「父をご存知なのでしょうか?」
「木兎家の光臣様と貴光様といえば、社交界で知らぬ者はいない御兄弟だったのよ」

女は四十路になっても乙女なのだろう。
光太郎と歳の変わらない息子を持ちながら、侯爵夫人は当時を思い出したのか頬を紅色に染めた。







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