第2章 酒は飲んでも呑まれるな
そういえば、私が惚れ込んだのは容姿と仕事ぶりと真面目さであって、内面的な部分はほとんど知らなかった。
セクハラ紛いの言葉も、
彼の言葉と思うと嫌ではなかった。
むしろ、もっとずっと彼と一緒にいたい。
もっと彼を知りたい。
そんなふうに思えるのが不思議だった。
この会社で社内恋愛なんて無理だと諦めていたから、こんな人が現れるなんて思ってもいなかった。
しかし相手は派遣社員。
この機会を逃してしまったら、
プライベートで言葉を交わせることは無い。
それどころか、あと三日経てばもう二度と会うこともないだろう。
なら、どうせなら、思いきってもいいよね?
私の思考回路の中には、
私を止める理由などひとつもなかった。
「ね、ねぇ、加々知君」
彼の腕を引いて立ち止まる。
彼がこちらを向くと、どうしても気が引けてしまいそうになるけれど、
乗りかけた船だ。降りる訳には行かない。
「加々知君、ごめんね」
彼のネクタイをぎゅっと引いて、
唇を奪った。