第1章 派遣社員の加々知さん
「ごめ~ん鞠ちゃん、これやっといてくれない?」
「日向先輩、これお願いしますね!」
「おい日向、これやってくれよ」
今日もまた残業か。
これでもう今月何回目だろうか。
チラホラと人が帰り始めたのを見て小さくため息をついた。
「すみません、この書類なのですが」
「あーはい。私がやるわよ」
また仕事が増えるのか……
肩凝りで痛む頭を動かして声のした方を向くと、派遣で来ている加々知君が紙の束を手にして立っていた。
彼が私に仕事を持ってくるとは珍しい。
「最初は向こうに出したのですが、
こちらで良いと言われましたので」
そう言いながら、彼はもう帰ろうとしている上司の方へ目を向けた。
なるほど。
あの狸じじい、また自分だけ早く帰るつもりか。
しぶしぶと渡された束に目を通した。