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ただのパンダのお引っ越し

第9章 動物園でご対面



それでもまあ、せっかくなのでお言葉に甘えて掴まらせていただいた。
人の居るところで伊豆くんとくっついているのって、何だかドキドキする。

…と思っていたら、伊豆くんが私の肩に手を回して抱き寄せてきた。彼もドキドキしているのだろうか。
でも、電車内であんまりイチャつくのはちょっと、どうも。
そう言おうと思って伊豆くんの顔を見上げた。

「…むぐ」

言葉を発する前に唇を塞がれた。伊豆くんがキスしてきたのだ。
ちょっとちょっと!だからそういうのナシで!

伊豆くんの体を押し戻そうとしたけれど、彼は離れまいとして私の体をガッチリホールド。
リップ音が電車の音とないまぜになって耳に響く。
しだいに伊豆くんが舌を入れてきた。
伊豆くんの舌先は私の上顎を器用にさする。これがくすぐったくて気持ちよくて、私は大好きなんだ。

なんて、流されている場合ではないのである!
私は私の口内を無遠慮に蹂躙する伊豆くんの舌をガブリと噛んでやった。

「ひてっ!」

伊豆くんはようやく私の口から離れた。

「そういうのやめて!」
私はヒソヒソ声で彼をたしなめた。

「なんでだ?」
「みんなから丸見えでしょ!」

伊豆くんはザッと辺りを見回し、「誰も見てないぞ」と言い放った。
そりゃ誰もガン見はしないだろうよ。

「とにかく…人前でそういうのはダメ!」

伊豆くんは渋々引き下がった。
そうこうしているうちに電車も動物園の最寄り駅にたどり着き、私はこの淫獣から解放されたのだった。
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