第1章 三角形 case1
京ちゃんがしびれを切らして、掛けてきたのかと画面を眺めて固まる。
でも予想は外れて、表示された名前は黒尾さん。
『…小熊?』
携帯を耳に当ててもすぐに喋る事が出来なかった為か、不安げに名前を呼ばれた。
「…あ、いや、その。ごめんなさい。」
慌てて口から出たのは何故か謝罪で、不覚にも笑えてきてしまう。
『何なの、お前。謝ったり笑ったり。』
呆れたような声が聞こえた。
「いや、その。…黒尾さんの電話って何時もタイミングが良いなー、って思いまして。」
謝った理由なんて本人も分からないし、笑ったのにも理由はない。
誤魔化すように別の事を言った。
『あぁ、確かに小熊は電話出る時は早いよな。俺の事でも考えてたか?』
「違います。京ちゃんとメー…あ、いえ、何でもありません。」
緊張はせず、普通に喋ると言わなくて良い事を口走ってしまう。
途中で止めても内容が分かる程度までは言葉にしている訳で、完全に失敗した。
『…やっぱお前等、仲良いよな。』
「いや、喧嘩してました。」
『…え?』
私と京ちゃんが喧嘩するのは意外だったんだろうか。
その一音を最後に沈黙してしまった。