第1章 三角形 case1
黙ったまま、電話が繋がっているだけの状態なんて申し訳ない。
だからって、急に話を変えたら、変な誤解を招いてしまいそうだ。
「あの、喧嘩って言っても深刻なものじゃなくて、ですね。
私、今日はマネージャーの先輩と一緒にご飯に行ってまして、遅くなったから怒られてた、と…いう状態でして。」
他の選択肢が見付からなくて、喧嘩の理由を口に出した。
『おいコラ。その、彼氏と喧嘩しちゃったから相談乗って下さい、みたいなのは止めろ。』
「あ。…ごめんなさい。」
それは失言だったみたいで、また沈黙。
下手な事は喋らない方が良いような気がするから、相手の出方を伺う。
『…でも俺は赤葦の意見に賛成。私立高校の制服着て夜にフラフラ歩いてたら誘拐とかされそうじゃね?
暴れたり大声を出すタイプに見えねぇし、体が小さいから拐いやすそうだ。俺が連れて帰りたいくらい。』
深刻な話をしたくないのは、黒尾さんも同じなようで、最後にはふざけた話が返ってきた。
「じゃあ、黒尾さんが迎えに来て下さいよ。」
無理だと分かっている事を冗談めかして返す。
『…出掛ける前に連絡くれりゃ、出来る限り行ってやるけど?その後、俺が連れ去っていいなら、な。』
「…やっぱり遠慮しておきます。」
迎えに来て貰ったからといって見返りを本当に要求するとは思ってないけど、遠くからわざわざ来て貰う必要はない。
なんか、この人なら本気で来てしまいそうな気がするし。
まだ、そこまで迷惑を掛けていい間柄じゃないから断った。