第1章 三角形 case1
昨日の事を思い出して、また涙が出そうになってくる。
「…しましたよ。」
鼻声で喋るとすぐにバレるので返すのは一言だけ。
それでも、きっと黒尾さんは気付いてしまうんだろうけど。
『そっか。』
返答も一言だけ。
話の広げようがないものだから仕方がない。
他の話題を考えても、あまり話す時間もないから何も言えない。
『…あ、教室着いたわ。小熊、泣きながら授業受けるなよ?じゃ、また夜にでも電話すんな。』
やっぱり泣きそうな事に気付かれていた。
からかうような笑い声に、崩壊しそうだった涙腺は平常に戻り、反抗を告げる前に通話は終了になっていた。
終話を示す音が鳴る携帯をゆっくりと閉じてポケットに入れる。
教室にすぐ戻る気にはなれなくて、扉の横に背中を預けた。
今朝は京ちゃんを異性として意識してしまって、夫婦みたいなんて変な事考えてた。
その京ちゃんと離れた途端に黒尾さんの事が頭に浮かんで、少しだけど会話が出来て嬉しくてまた揺れてる。
自分の優柔不断な考えに腹が立ってきた。
苛立ちを逃がすように息を吐いていると、予鈴が聞こえて教室内に戻る。
こんな状態で授業を受けた所で頭になんか入る訳がなかった。