第2章 ‐case1‐ending.
目を覚ました時には、京ちゃんは居ない。
窓から入ってくる日差しが、少し赤みを帯びていた。
外に目をやった瞬間、体から血の気が引いていく。
もう夕方だ。
部活の途中で爆睡とか、何やってんの、私。
慌てて部室から飛び出して体育館に向かう。
今日の練習は終わっていて片付けをしていた。
「すみませんでしたっ!」
取り敢えず監督の元に行って頭を下げる。
だけど、逆に体の心配をされてしまった。
どうやら京ちゃんが、私は熱中症気味だから休ませてる、と話していたらしい。
顔色も悪かったものだから、皆があっさりと信じてしまったようだ。
部員の方々にも心配をされて、ただの寝不足だとは言えなくなってしまった。
結局、片付けすらも参加させて貰えず、部活が終わる。
独りで歩こうとした帰り道。
伸びた自分の影を追うように、背の高い影が覆ってきて。
「…ひゃっ!」
頬に、冷たいものが触れる。
何かを確かめようとそれに手を当てるとペットボトルだった。
私の好きなジュース。
すぐに引かれたペットボトルの蓋が外されて、差し出される。
「お疲れ。」
「京ちゃん…。」
まるで、この高校に入ったばかりの頃の、幼馴染みとして一緒に歩いていた頃の、再現のようだった。
「…彼氏にはなれなくても、俺は良かったんだ。さくらと、この関係を続けていければ、それだけで。
さくらに、好きな人が出来たら壊れてしまうと思ってた。
だけど、運が良い事に、さくらが好きになった人は、俺達の関係肯定派だからね。
俺の為に、兄妹ごっこ、続けてくれる?」
京ちゃんは珍しく笑っている。
私の為じゃなくて、自分の為って事にして、私が承けやすいようにしてくれている。
この優しさには、甘えても良い気がして。
ペットボトルを受け取る事で、了解を示した。