第2章 ‐case1‐ending.
「…京ちゃん、あのね。」
控えめに声を掛ける。
顔の前に手が近付いてきて、言葉を制止された。
「さくらが、俺が察して離れていくのを望むなら、俺はそうするから。言うのが辛いなら、言わなくていい。」
返事は分かっている。
だから、逃げたがりの私を知っているからこそ、道を用意してくれる優しさ。
これを肯定すれば、それが返事になって終わりだ。
でも、この優しさには甘えないと決めている。
「京ちゃん、有難う。だけど、言わせて。」
「…分かった。さくらが言いたいなら、ちゃんと聞くよ。」
京ちゃんの眼は、どこか淋しそうで。
それでも、口を挟まないようにしっかり唇を閉じて。
聞く方の覚悟を決めてくれている。
「私、京ちゃんの事、頑張って男の人として見てたの。でもさ、頑張ってるって状態は、普通じゃないんだよね。
普通の私で、普通に京ちゃんを見るのは、やっぱり、お兄ちゃんみたいな人のままだった。」
苦しくて、泣きそうだけど。
「お兄ちゃん以外には、見れなかった。それで、私は…他の人を好きになりました。だから、ごめんなさい。」
本当に泣きたいのは京ちゃんの方だろうから。
出来る限り言葉を止めずに、お断りの台詞までを吐き出した。
京ちゃんは、長い息を吐き出して、私の頭を撫でてくる。
「…昼休憩、もう後30分くらいしかないよ。」
口から出てきた言葉も、私の話を聞かなかったフリのようで。
「…京ちゃん、あの。」
「蒸し返さないで。さくらより、俺の方が辛いんだよ。…少し、寝てて。」
もう一度言おうとしたけど阻まれて、しっかり伝わっている事が分かった。
京ちゃんを見ているのは気まずいから、従うように目を閉じる。
寝不足の所為もあって、すぐに眠りの世界へと旅立ってしまった。