第1章 三角形 case1
歩いてみると意外に長かった足湯から上がった頃には、時間はお昼過ぎ。
お腹も減ってきたから、フードコートのようになっている場所に行った。
さっき、縁日でご馳走して貰ったから、ここは私が、とか思っていたけど。
「さくら、席取っておいて。」
「俺等が何か買ってくっから。」
私を座らせておくという、先手を打たれてしまった。
このテーマパークでの会計は、リストバンドに記録される。
最後にフロントで、纏めて支払う方式だ。
つまり、現金が使用出来ない。
お金を渡す事も出来ずに、どちらかのリストバンドで会計された食事が運ばれてくる訳だ。
京ちゃんは、私自身が自分の価値をお金だと思い込んでいる事を知っている。
お金で、一緒に居てくれる時間を買いたいのだ。
多分それは、ファミレスで食事をした頃から黒尾さんにも気付かれていて。
2人は、一緒に居る対価として求めているのは金銭じゃないと、行動で示してくれている。
こうやって、心底私を大事にしてくれている2人。
一緒に居るのが、楽しすぎて、幸せすぎて。
どちらも選ばず、このままでいたいなんて残酷な事を考える。
そんな状態で、独りで待たされて。
私の一番悪い癖。
甘えたで、構って欲しいからやる、逃亡。
それが、発動してしまった。