第1章 三角形 case1
‐赤葦side‐
本当に、何言ってるんだ、この人は。
この期に及んで、まだ敵に塩を送る優しい男の顔がしたいのか。
そんな事をしなくても、とっくに勝負はついている。
俺を男と認識した途端、会話すらしてくれなくなったさくら。
そうやって俺から離れていくのは、黒尾さんに気持ちが傾いているからだろ。
今日を境に、2人がもっと近付くだろうと読んでいたのに、まだ俺を惨めにさせる気か。
目の前で、更に仲良くなっていく2人なんか見たくはない。
どうやってでも、俺は断って2人でデートして貰おうと思っていたのに…。
「京ちゃんが一緒なら、良いですよ。3人でデートしましょう。」
さくらの、鶴の一声。
「さくらが言うなら、俺も行くよ。」
俺は、結局さくらに弱い。
お姫様には、逆らえない。
ただ、2人とも、その選択を後悔するなよ。
元々、譲ってやる気なんか無かった。
その気持ちを握り潰して、折角2人をくっつけてやろうとしていたのに。
わざわざ機会を与えてくれるなら、もう遠慮はしない。
今は黒尾さんに傾いていても、俺にはさくらの傍に居てやれる優位性がある。
それを上手く使えば、独りが嫌いなさくらを振り向かせるくらい、出来なくはない筈だから。
諦めようとしていた気持ちは完全に失せて、最後まで足掻いてやろうと誓った。