第1章 三角形 case1
‐赤葦side‐
ここ数ヶ月、ろくに話もしてなかった俺の来訪は、さくらを驚かせただけだった。
さくらは、恋愛解禁宣言した誕生日に会いに来た理由を、多分勘違いしているけど。
俺は、ただ、1年に1回の特別な日を独りで過ごさせたく無かっただけで。
別に答えを急かす為に来た訳じゃない。
だから、今日ばかりは、俺の方から、あの人にも声を掛けておいた。
きっと、さくらが一番祝って欲しいのは彼だろうから。
ケーキじゃなくて、それが俺からのプレゼント。
気まずそうに目を伏せて、こっちを一切見ようとしないさくらを眺める。
もしかしたら、2人きりで居られるのは、今が最後かもしれない。
そう思ったら、珍しく良い人ぶって、彼に連絡した事を後悔した。
それでも、それが無かった事になる訳がない。
だったら、少しでも長く、さくらを見ていられれば、それでいい。
その思いも虚しく、数分もしない内に、2人きりの時間を終了させる合図。
玄関のチャイムが聞こえてきた。