第1章 三角形 case1
この日の件は、流石に母が知る事になり。
赤葦さん宅に預けていた鍵は回収されたから、突然の京ちゃん襲来の恐怖は無くなった。
合鍵まで使って家に入ってきたのは、初めてだったけど、やっぱり許される事ではなかったらしい。
何かされてたら、それこそ赤葦さんと縁を切ってでも、京ちゃんを私から遠ざけただろう。
普段は子どもに、私に、興味なんか無いクセに、こういう時は、護ってやってる、って親面されるのには腹が立った。
だから、何も無くて良かった、と。
心底安堵していた。
私が、もし黒尾さんと付き合って、京ちゃんを失うなら、それは自分の選択だ。
親に引き離されるのとは、訳が違う。
家族の次に大切な京ちゃんを、自分以外の意思の介入によって失うのは耐えられない。
あんな事をされても、京ちゃんを軽蔑出来なかったし、嫌いになるなんて無理だった。
男としての京ちゃんに触れられるのは、怖かったけど嫌では無かった。
本当に京ちゃんを兄としてしか見れないなら、軽蔑したし、嫌だっただろう。
これは、私の気持ちが少しずつ、京ちゃんを男の人として見始めた証拠だった。