第1章 三角形 case1
でも、泣いている場合じゃない。
逃げ癖は治したいけど、今の状況は逃げなきゃ駄目なやつだ。
「取り敢えず、外に出ます。黒尾さんの事、信じて待ってますから。」
『おぅ。…携帯、繋がるようにしとけよ。』
その言葉に返事をしようとしたけど、出来なくなった。
部屋の扉が開いたから。
「…さくら、誰と電話してるの?」
扉を開けた主は無表情を保ったまま私を眺めている。
「黒尾さん…です。」
威圧するような目が怖くて、普段通りには話せず自然と敬語になった。
ズカズカと部屋に入ってきたその人は私の手から携帯を取り耳に当てる。
「明日も朝練があるので、失礼します。」
勝手に電話口に向かって喋り、一方的に電話を切った。
すぐに着信を示した携帯を取り返そうとしても、身長差が邪魔して出来ない。
「携帯返して。」
行動で取り返すのが無理ならば言葉で要求した。
意外にもあっさり返された携帯は電源が落とされている。
「勝手な事をしないでよ。大体、なんで家の鍵持ってるの?」
「うちの親にオバサンが預けてるの忘れないで。メールは返らない、電話も繋がらない、心配して見にきて何が悪い?」
「有り難迷惑だよ、京ちゃん。」
うちに勝手に上がり込み、更に人の携帯を奪った上に操作した犯人は、私の幼馴染み…京ちゃんだった。