第1章 三角形 case1
それからは普通に雑談して、一時間くらいは喋っていた。
時間的にも深夜に近くて、そろそろ電話を切ろうとした時、インターフォンの音が聞こえる。
『こんな時間に来客?危ねぇから出るなよ。』
その音は通話中の相手にも聞こえていたようで、黒尾さんの声が低くなった。
京ちゃん曰く無防備な私を窘めているようだ。
『どうしても出るなら、赤葦呼べ。幼馴染みなら家も近いんだろ。』
「敵に塩を送っていいんですか?」
『お前の安全が一番大事に決まってるだろ?』
「有難うございます。でも、大丈夫ですよ。出ませんから、京ちゃんを呼ぶ気ないです。
…すみません、もうちょっと電話平気ですか?」
流石に私だってこの時間に人が来るなんておかしいのは分かっている。
なんとなく怖いのもあったから、少しでも長く人の声を聞いていたかった。
『お安い御用で。』
快諾してくれた黒尾さんとまた雑談をしていると、今度は玄関が開く音がする。
「…黒尾さん。今…。」
『どうした?』
「玄関の鍵、閉めた筈なのに開く音が…。」
『…はぁ!?』
「…怖いです。助けて下さい…。」
『…お前の部屋、窓あるか?』
「あります。」
『そっから、外出られるか?』
「…多分。」
『なら、逃げろ。すぐ行くから。』
電話は繋がっているけど、距離は遠くて助けを求めても意味なんてないと思った。
時間も時間だし、来られる訳もない。
なのに、そう言ってくれたのが嬉しくて涙が溢れた。