第9章 初めての実践
「じゃあ、そろそろ講評を始めるよ!まず…切島少年、瀬呂少年。二人は見事に暁少女の掌の上で遊ばれていたね」
確かに…まず私が出した霧、思いっきり吸い込んでたし。
「つーか、あの霧狡くね!?俺らああいう自然現象に適した“個性”でもねーし」
「そうだよ!あれ、一体何だったんだ!?」
鋭児郎君と瀬呂君が私に迫る。まぁ、教えてあげてもいいのだけど…
『こういうのは自分で気付くべき事じゃない?ですよね、オールマイト先生?』
「えっ!?あ、いや、まあ、そうなのだが…」
『ほら、先生もこう言ってるし』
急に話を振られたオールマイト先生はあわあわし始めた。先生も予測ついてないんですね…
あの“白い霧”の正体、ただの霧ではない。
〈幻影竜イルシオン〉の力を使った幻影魔法_“幻影竜の吐息(ミラージュ・ブレス)”_である。
二人ともそれぞれタイマンで叩いても良かったのだが…それだとあんまりだし、〈幻影竜〉の力は人に対して使った事が無いのでちょうどよかった。
〈幻影竜イルシオン〉の数々の幻影魔法は、人々はもちろん、他の竜達にも凄い影響を与える。
とても誇りが高く、自分の領域(テリトリー)に入った者は誰であろうが許さない。
自分の魔法で追い返す、若しくは間接的に死なせる…など、仲間の竜からも恐れられた存在なのだ。
…なんて皆の前で言えるはずもなく。
『冷気で蜃気楼を作りました』
また一つ嘘を重ねていく。
「蜃気楼ぉ!?そんなんアリかよ!!」
「てか、そんな事まで出来るなんて、マジすげぇよ八雲!」
皆は素直に納得してくれたみたい。自分で嘘をつくのは辛いけど…でも、バレた時はもっと怖い。
必要な嘘だけど、やっぱり心が軋(きし)む。
講評の結果は、当然と言えば当然なのだが、私が一番だった。個性を上手く使いこなし、ヒーロー二人を出し抜いた。敵ならではの作戦だったと。
『(敵…か。確かに今の魔法は、敵に近いのかも)』
いくら訓練で敵役だったからとは言え、ハッキリ「敵」だと言われたらちょっと傷付く。
『(…“彼”も、こんな気持ちだったのかな)』
ふと普通科にいる友人の事を思い出す。
“個性”が敵向きだから、という理由で周りから迫害されていた彼は、今でも普通科で一人なのだろうか。
『(今日帰ったら様子を聞いてみよう)』