第5章 【桜色】桃色診断書
~Side轟~
「…くん、轟くん? おーい!
焦凍くーん? 起きてますかー?」
思い耽り過ぎた、
初めて呼ばれた名に意識を戻すと、
髪色と同じ色の丸い目が俺を覗き込んでいた。
(やっぱり仔犬みてぇだ。)
コイツはこれでもかって位可愛いから
こういう時困る。
思いのまま腰を抱き寄せると
案の定赤くなって抗議の目を上げた。
「こ…ういうのはっ、外でやっちゃダメなヤツ
だと、思う。」
「良いな、それ。」
「どれ!?」
ヒーロー科の推薦を蹴るだけあって
こいつの身のこなしには時折目を見張るものがある。
それでも一度捕まえてしまえば決定的な力の差ってヤツだ。
ハイリは離れようとしきりに身を捩らせていたが
程なくして諦めたのか、途端に大人しくなった。
「名前、初めて呼ばれた。
そっちの方が嬉しい。」
「あぁ、確かに私もそれは思うんだけど…
はっきり言って呼びたくないなぁ…。」
…………はっきりだ。
本当にはっきりだ。
可愛い顔して何気にスゲーこと言ったぞコイツ。
本来なら傷付くべき所なんだろうが
ここまではっきり言い切られては
傷付く以上に面食らう。
絶句した俺に気付いてか、
自分の吐いた言葉に気付いてか
ハタと我に返ったハイリは慌てて俺の腕を掴みながら
捲し立て始めた。