第107章 【番外編】煙の奥の狂気
「ん…な、に…?」
夢中だったるるさんがふと見上げる。
「なんでもねえよ、集中しろ。
帰れねえだろ?」
「あっ、ぁぁ…!!いじわるぅ…!っ!」
息を詰めるかのような甘い声が反響する。
腕だけでその華奢な身体を持ち上げ、抱きしめ、膝の上に乗せた。
苦しいのか気持ちいいのか、るるさんが声を荒げる。
「はぁあっ……!ふ、ふかい…ふかぃ…っ、あっっ…!!あああっ…!!!」
びくびくと背中が震える。
すっかりるるさんがまた夢中になってるところを狙って、丸めたマフラーがコントロールよく自分の手に飛んでくる。
戸を閉めるようジェスチャーをされ、慌ててそれに従う。
くぐもったるるさんの声がまだ聞こえた。
何があったか頭が混乱したが、やっと今わかった。
血液が熱く体を巡る。
身体の中心が痛い。
諦めとも悔しいとも全然違い、想像以上のソレは、ばっちり自分に刺さってしまった。
リアルで目の当たりにして、恐怖や気持ち悪さより、昂ってしまったことに心底驚いている。
及川さんは昔、るるさんのことを好きとはまた違う感情を抱いているという話を少しだけ俺にしたことがあった。
うまく思い出せないが…。
彼女を幸せにするのは自分ではありえない。
故に悔しさが勝ってしまい、つい苦しめて痛めつけてしまう、と。
好意以上の狂気。
確かに、るるさんを上手くコントロール出来るのは、もうあの人しか無理かもしれない。
それでも、俺達よりずっと大人が、わざわざ見せつけるようにあんなことをするだろうか?
彼も狂わされた一人かもしれない、なんて、思ってしまった。