第107章 【番外編】煙の奥の狂気
外がもう暗い時間、るるさんは部活に顔を出してくれた。
「差し入れです、どうぞ」
とお菓子とプロテインバーを取り分けてくれる。
にこにこしながら最後に自分に渡し、お世話になりました、と語尾にハートを付けながら挨拶をしてくれた。
照れくさくて顔も見れずに短く返事をする。
今日もふんわりと煙の苦みが混じっている花のにおい。
まだこの先も会うことはあるだろうが、何故か握手の手をしてその華奢な姿の前で待ってしまった。
るるさんはきょとんとして戸惑ってから応えてくれる。
突拍子もないことをしてしまったことに気付き、顔がぶわっと熱くなる。
「影山くん、中学からずっとありがとうね」
にこにことしながら柔らかな手をぎゅっと握ってくれる。
アイドルの握手会なんてよくわからなかったけれど、今は行く奴の気持ちがなんとなく理解できたかもしれない……。
「ずるいぞ〜!」
と他の先輩達が大声でブーイングしてくる。
何人かが俺の後ろに並ぶと、押しのけてるるさんと固い握手をかわし、写真を撮っている奴もいた。
解散後、部室にマフラーを忘れたのを思い出し、日向に先に行ってくれと言い踵を返した。
明日でも良かったが、冷え込む朝にないのはキツい。
面倒だなどと思いながら部室近くを通った。
人の声がする。
先輩達が鍵をかけると言っていたので、まだ誰かしらが残っているのだろうと思った。
段々とその声は、女だと気付く。
いやな予感はしたが、それより勝つ好奇心。
音が鳴らぬようそっと戸を開けて、やはり、と思う。
想像するより数十倍は妖艶で、淫靡。
ずっと好きだった女の、幸せそうなとろりとした表情。
中学時代のソレは一度だけ見たが、そんなのをゆうに超える愉悦。
男の首に腕をしっかりと絡め、深く深く求める姿。
「あっ……あぅ……も、もっとぉ……」
「可愛い後輩達の箱庭で何ヨガってんだ」
「ちが、だって…け、しんさんが…っあっ…ん、む、ふっ……」
何かを言いかけたるるさんの唇を獣のように貪る。
何かを遮るかのように。
こちらに気付いた烏養さんはじっと睨みつけてくる。
にやっと歯茎が見えそうなほど笑うと、俺の忘れ物を持ち上げてひらひらと見せる。
たまたまなのか、わざとなのか。
見せつけるためにわざわざ……。