第106章 【番外編】願い事
歩行者天国で人がたくさん右往左往していく中、大きな交差点に割と目立つ集団がいる。
身長が高いせいでやたら威圧感がある数人と、手を振って跳ねてにこにこの日向くんだ。
薄暗い夕方の人混みでもすぐに見つかって良かった。
「るる先輩!浴衣!浴衣!すごいかわいい!!」
「ありがとう!」
ぴょんぴょんと跳ねているのを見て私も一緒に小さく跳ねてみる。
澤村くんと菅原くんがさっと私と日向くんの距離を取って
「次のトレーニングが地獄にならないようにな」
と囁かれた。
この意味を知るのはだいぶ先だった。
皆で神社に向かい、大きな鳥居をくぐる。
長い石段を見上げて、そういえばこっちに引っ越しして(引っ越し…というか、ただの家出だけど…)
まだ土地神様にご挨拶してなかったな、と思い出した。
皆が真剣に次の大会のお祈りをする中、私は一人、なけなしのお小遣いの500円玉を投げて、頭を下げる。
(ご挨拶遅れてごめんなさい…。
皆が大会を楽しめますように、皆が健康で元気に過ごせますように、受験なんとかなりますように……。
繋心さんと結婚できますように……)
最後の大事なお願い事を心でとなえると、顔が熱くなる。
(500円で欲張りすぎたな…またお正月に貯金崩してこよ…)
辺りを見回すともう誰もいなくて、おーい!と石段の下から声が聞こえた。