• テキストサイズ

迷い道クレシェンド【HQ】【裏】

第106章 【番外編】願い事


商店街で一番大きいお祭りが催される。
あまりこういう縁日に参加したことがなかったので楽しみ半分と、ちょっと残念な気持ちが半分。
夕方もまだ日が落ちるのが遅い。
だんだん暗くなるのに人が増えてきて、熱気が上がる。
緑と混じった湿気のにおいが、美味しそうな焦げたソースの香りに混ざる。
「かきいれ時だからなぁ、店、離れられねえんだよ」
「大丈夫ですよ」
頭をぽんぽんと優しく撫でられ、私もなんとか笑顔で返事した。
彼のお母様が可愛らしい浴衣を着付けてくれて、近所の美容師さんがヘアメイクセットをしてくれた。
いつもより高く結ってくるくると巻いた髪はあまりやったことがなかったので違和感がある。
「どうですか…?」
と黒い浴衣に羽織をかけたその後ろ姿に聞いてみる。
「……っ、あ、うん」
目線を反らされてしまう。
少しだけ耳が赤い。
これはいい方の反応だ、と嬉しくなり、隣に立ってくすくすと笑う。
「んだよ…」
「ううん、繋心さん、かっこいいなって」
手を繋ごうとすると大きな手がぎゅっと私の手を握る。
よくわかってくれてるな、とつい上がってしまう口角を抑えて、もう少し一緒にいたいと思った時、入口のガラスに人影が写る。
慌てた様子で手を離された。
菅原くんと澤村くんが迎えに来てくれて、案内してくれるという約束になっていた。

「るるさん…か、かわいい…」
「ありがとう、すごく嬉しい…」
私を見るなり早々に菅原くんが褒めてくれる。
笑顔で返すと、少し顔が赤くなっているような気がする。
「おい、悪い虫が付かないように頼むぞ」
繋心さんがお店から出てきて一言怒っているように伝える。
「みんないれば大丈夫ですよ〜」
ねえ〜と隣の菅原くんの腕を掴んで同調させる。
このあと待ち合わせた後輩くんたちとも合流予定だ。
「……ミイラ取りがミイラになるのも無しだからな!」
キッと菅原くんを睨み、彼はきゅっと肩を狭くする。
「つ、努めます…!!!」
「もう、大丈夫ですって!行ってきます」
心配してくれるのは嬉しいけど、他のみんなに失礼な気がして慌ててお店から離れて商店街に出る。
「ごめんね!」
と二人に謝ると、なんともいえない表情をした。
「いや……その……」
「烏養さんは正しいよ」
と口籠る菅原くんを澤村くんは笑って言った。
 
/ 701ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp