第103章 【番外編】嫉妬より深い
繋心さんが珍しくスーツに袖を通している。
忙しなく朝からバタバタしているけれど、私は予定を聞いていなかったので少し疑問に思った。
「どこかお出掛けですか?」
と聞くととても気まずそうな顔をした。
「……今日まで言えなくてマジで申し訳ないとは思っているんだが……。
親に勝手にお見合いの予定を入れられてて……」
「……おみ…」
「昔からの知り合いだから仕方なく……断っていいと言われてはあるから何が何でも断って帰って来る…!」
「……」
私はその言葉が嬉しくもあり、私自身が枷になってしまっているのではないかという不安もあり、準備をしている背の高いその人をじっと見つめる。
「繋心さんにとって良い方なら、遠慮なく言ってくださいね?」
真剣にそう言うと、優しく頭をぽんぽんと触られる。
「不安にさせて悪いな。
それは絶対にねえから」
と静かに力強く言われた。
スーツ姿でその言い方はずるいなぁと思い、いつもよりあざとくふるまい、
「じゃあ、安心できるようにぎゅって…してください…」
と言ってみる。
少し照れのせいか躊躇してから勢いよくぎゅっと抱き締められる。
しっかりコロンも付けているのがなんだか悔しい。
急に泣きそうになるけれど、今はこのハグで許してあげようとこっそり思った。