第12章 迷宮
るるの最後の家出には、恐らく俺が想像するよりも遥かな覚悟があったようだ。
他の人や本人からも聞いたが、ホームレスみたいな生活をしてまで家から逃げたのだから。
恐らく、その数日前、何日かなんて忘れたが、そこで親父が言った一言が残ったんだろう。
「進路は決まったか?」
彼女はハッとした。
まるで、言われるまで何も考えてなかったかのように。
彼女の本心を知ってる俺としては、自殺しようかそのまま失踪しようか考えてたんだから、それは仕方ないことのように思えた。
「おじさま、もちろん、
就職して早くご迷惑にならないように出ていきます」
咄嗟に誤魔化すように言った言葉。
親の愛情なんて知らずに育ったるるは、皆自分のことはいらないと思っている。
薄々とそれは思っていたが、確信に変わった。
「何を言ってるんだ?
どこを受験するかっていう話だぞ」
「…?」
珍しく深く眉間に皺を寄せて親父を見つめるるる。
こんな顔は、嫌いな食べ物を出された時くらいしかしなかっただろう。
「私は、居候の身ですから、そんな、甘えられません…」
ぐっと唇を噛むと潤んだ瞳で答えた。
両親はぽかーんと口を開けている。
「こうして食事を出していただいてることすら、謝罪したいほどです…」
肩を落とし、今までの家と比べたんだろう。
「るる、それ以上は…」
言うとバレるぞ、という意味で膝を叩いた。
「!!!」
再びハッとした顔をすると、怖い顔をした親父が箸を震わせている。
5年間、結局埋まらなかった家族としての溝。
それは、るるが独自に築いた大きな壁だった。
他者を寄せ付けない壁。