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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い


 でも、わざわざ社員を雇うよりイヤミ社長自身が美女になれば、売り上げが
丸儲けでは?と思うんだけど。
 でも一度そういう話をしてみたところ、真っ青な顔でガタガタ震えだし、
『二度とその話はしないでほしいざんすっ!!』と叫ばれた。謎である。

「あ、もう夕暮れですか。仕事をしてると早いですね」
 見上げればあかね色の空である。
「じゃ、そろそろお開きざんすね。じゃあ、また明日、頼むざんすよ」
「お疲れさまでしたー」
 手を振って解散。河川敷を上がっていく。

 今日の儲けは○万円かー。
 座ってお話しするだけだけど、人見知りの小娘にこういう職種は辛いっす。
 三百万もまだまだ遠い。

 いっそこの世界にずっといてもいいのでは?

 でもなあ。松野家に居候して、仲の良い大家族を毎日見ていると、どうしても思ってしまうのだ。『私にも、こんな暖かい家族が待ってるのでは』と。
 松野家の人たちがどんどん好きになっていくからこそ、ちゃんと元の世界に戻らなきゃ。

 長い影を道に落としながら、とぼとぼと歩いて行く。 
 とにかく、六つ子のお兄さんたちに心配だけはかけないようにしよう。

 何だかんだで家族でも何でもない私を可愛がって下さる、世界一大切なお兄さんたちなのだから!
 
 と思ったとき、悲鳴を聞いた気がした。

「ん? あれ?」
 やだなあ。考え事をしてたら、道を行き過ぎた。もう夜じゃ無いか。
 早く帰らないと、一松さんが心配する。
 
 一松さんなあ。ティッシュ配りのバイトを止めたから、お迎えはもういいと言ったら、
また落ち込んでたし。どうフォローしたものか。
 松野家への道に戻ろうとしたら、声が聞こえた。

「てやんでい、全員、ツケを払うまで下ろしてやらねえからなっ!!」

「んな……っ!!」

 現代にありえない光景を見た。
 ひと気のない道ばたに磔(はりつけ)が六つ。
 そして焚き火が六つ。

 えーと……。

 おでん屋台がある。
 どこかで見た気がする小さなお客様。
 彼は怒りのまなざしで火を燃やし続けている。
「ち、チビ太、落ち着け!!」「必ず払うから!!」「お慈悲を~!!」
 と泣きながら叫ぶ、同じくどこかで見た気がしないでもない成人男性六名。

 全員、木の杭に縛られており、下では焚き火が威勢良く燃えている。
 ほどなく大惨事になるのは目に見えていた。
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