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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い


 互いに見えなくなるまで手を振りあう。そしてようやくチビ太さんが見えなくなり、

「あっ!」
 ポンッと音がして、私はいつもの平凡な私に戻ってしまった。
「ちょうど時間切れざんすね。ギリギリだったざんす」

「はあ~」
 疲れてベンチに倒れ込む。

 今までの私は、謎の薬の力で『誰もが振り返る美少女』に変身していたのだ。

 一方、イヤミ社長は小躍りである。
「ウヒョヒョ!! おしゃべりだけで二時間二万とは、悪くない稼ぎざんすね!!
 ほれチミ、嫌だけど一万円受け取るざんす!!」
「あ、ども」

 社長から万札をいただき、大事に財布に収める。
 私はまたベンチに腰掛け、すでにお札が何枚か入った財布を眺めた。
「世の中には変な需要があるもんですね」
「ヒョヒョヒョ。客は可愛い妹という夢を手に入れ、我々はお金を手に入れる!
 どっちも嬉しいWin-Win(ウィンウィン)ざんす!!」
 イヤミ社長は、ふところから謎の錠剤の入った瓶を取り出し、頬ずりする。
 そこには、飲んだ人を美少女に変身させるスゴい薬が入ってるのだ。

 お気づきの通り、私はまだイヤミ社長とツルんでいる。

 今回は『未成年とお散歩』という露骨に怪しい商売ではない。『レンタル妹』である。

 …………。

 ほ、ほらお散歩とかだと犯罪の臭いがするけど、『レンタル』とつくと、ちょっと健全っぽいでしょ!?……は、ははは。多分。

 身バレもしないよう、イヤミ社長が通販で購入した、高額の『美少女薬』を使用。
 平々凡々な私も、アイドルみたいな美少女に大変身である。

 でもヤバいことはしませんよ? 基本はおしゃべり。
 妹になりきった私とお話しして一時間一万円。
 なおデートの場合、別途デート代加算の上、食事代や遊興費は全てお客様持ち。

 これで客が来るのかと思ったが、毎日、そこそこの客が来ている。
 ティッシュ配りより遙かに実入りが良かった。
 男とはまこと、美少女に弱い生き物であった。

 ちなみに取り分は私と社長で折半(せっぱん)。

 社長は『美少女薬』の仕入れや客引きに加え、仕事中は私の安全のため、ちょっと離れた場所に待機してくれているので。

 私に何かあったら六人の悪魔が襲いかかってくると、身を持って知っているので、彼もまた必死である。
 
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