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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い


 …………

「…………」

 イライライラ。一松さんの朝ご飯が終わり、皿洗いもすませた。茶の間のテレビは死ぬほどつまらんトークを流し、一松さんは茶を飲みながらボーッとそれを見ている。

 うう、宝くじ。早く換金したいのに。

 無意識に何度もポケットに手をやってしまう。無事ですよね。
 見ない間に、煙になって消えてませんよね!?

「どうしたの、さっきからソワソワして。俺のことなんて気にしないで、したいことをすれば?」

 ドキッとする。いつもの皮肉っぽい言い方をしてるだけだと分かってるのに。
 内心、何かを見透かされているのではと気が気では無い。
 焦るな松奈……ついに一松さんとのゲームに勝利するときではないか。
 奴にいかに私の帰還を妨害する意志があろうと、三百万を用意すれば私の勝ちなのだ。

「じ、じゃあ買い物に行ってきますね」
 立ち上がり、買い物カゴを持って玄関に行こうとすると、
「分かった。着替えてくる」
 とパジャマ姿の一松さんが立ち上がる。
「はっ!?」
「何を驚いてるの。荷物持ち、いるでしょ?」

 そう。男六人を養うこの家は、買い物量がハンパない。
 たまに予定が合うとき、一松さんに荷物持ちを頼むのは、よくあること。

「……俺がついてきちゃ、迷惑?」

 うわっ。面倒くさいモードに入りかけてる。
 この状況で断るのは不自然か。

「ま、待って下さい。なら何を買うか確認してきます!」
「……うん」

 一松さんは、無表情でうなずいていた。

 …………

 一時間後、ようやく松野家に戻ってきたとき、私はへとへとだった。
 両手いっぱいの荷物を玄関先に置くと、
「荷物、台所に持って行っとくから」
 一松さんはヒョイッと買い物袋を持って行く。
「あ、どうもすみません……」
 笑顔でお礼を言いながら、内心焦る。

 どうする、この後どうする!?

 初動で致命的なミスを犯したのが誤りだった。
 あのとき馬鹿みたいに大声を上げていなければ、今頃三百万が私の手に……!
 と思いながら、無意識にポケットを探る。 

 ずっと買い物袋で両手をふさがれてたけど、宝くじはちゃんと――。


 な い 。

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