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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い



「地下アイドル商売って、ほとんどが赤字かと思っていました」
「大金を落とすファンさえ囲い込めば、何とか回るものざんすよ」
 あれか。握手券目当てに同じCDを千枚買ったりする人たちのことかー。
 でもいったい誰なんだろう。
 こんな町で活動してる地下アイドルって、そんなに多くは――。

「あ、分かった! そのアイドルって橋本にゃーちゃんでしょう!!」

 チョロ松さんがしょっちゅうCDを聞いてるので知ってる!!
「社長! 不肖松奈!! 社長のためにお手伝いいたします!!
 ビラ配りにグッズのレジ、行列整理に後片付け、何でもいたしますよ!」
 何とかご本人と仲良くなって、生写真を撮らせていただき、チョロ松さんに売りつけよう!! 最低でも万単位の稼ぎになるはずっ!!

「鼻息荒いざんすねえ。またろくでもないことを考えてるみたいざんすが、その橋本何とかって子じゃないざんすよ」

「ええー!」
 あと、ろくでもないとは何ですか。

「で、でも手伝えることはあるでしょう? 私、もうバイト先を選んでられないんですよ」

 採否待ちの時間すら惜しい。もう残り一ヶ月に迫ろうとしてるんだ。

「止めた方がいいざんす。ミーは今回はチミのために止めてるざんすよ?
 ここから先は魔境。良いことなんて何一つないざんす!」

「まあまあ。グッズの準備とか設営とか、人手は一人でも多く!!」
 頼み込むと、イヤミ社長も渋々、
「……じゃあ手伝ってもらうけど、後悔しても知らないざんすよ!?」
「しませんよ。失礼します!」
 と扉を開ける。

 …………

 そのアイドルさんは、ものすごく可愛かった。
「今日はお手伝いの子がいるの? ビラも配ってくれるの? ありがとうー!」
 その笑顔は、同性すらも惹きつける可愛らしさ。

 だが。

「それ、舞台のコスチュームっすか?」
「そうよ! 可愛いでしょう!」

 クルッと一回転してくれる。あ、ウロコが落ちた。

 魚。全身で魚を主張。だがそのタコだかイカだかは、魚ではなく頭足類。しかもネタに走ってるのではなく、大まじめにやってるらしい。

「…………」

 イヤミ社長を見たが光速で目をそらされた。

「じゃ、私、リハーサル行ってくるから! 新人ちゃん、よろしくねー!」
「は、はーい」

 新感覚『お魚アイドル』弱井トト子さん。

 ……生臭い。
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