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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い



 …………

 で、その日の午後も大変だった。もうバイト探しどころじゃない。

 研究所は、借金取りによって徹底的に荒らされていた。
 マジで何をやってるんだ、デカパン博士。
 元に戻せばいいだけなら簡単なんだけど、壊されすぎて全部破棄するしかない場所も多い。薬品類は危険なので時間をかけて慎重に処理。

 ゴミを片付け床を掃いて、やっと一スペース終わり。
 大きな棚が横倒しになっていたりすると、それを直すだけで一時間は食う。

 いや本当に、何で私がこんなことを……。

 全ては元の世界に帰るため、私を必死に探し、帰りを待ってるだろう、愛する家族に会うためだ。

 しかしこの作業とは別に三百万が必要なことも徒労感を強める。

 疲れた……。

 …………

 本日の作業を切り上げ、出てきたら夕方だ。
 今日はお母様のパートが早く終わる日なので、ちゃんと夜までに帰らなきゃいけない。
「はあ」
 遠くでカラスが鳴いている。
「もう、どうすればいいんですか!」
 夕暮れの公園のベンチで頭を抱えていた。

 だがグズって金が降ってくるわけでもなし。
 お母様の夕飯のお手伝いに取りかからねば。
「あ、いけない! お肉を買い忘れてましたっ!」
 私は頭を切り換えて立ち上がり、足早に商店街に急いだ。
 
 …………

 半時間後。 

 ガランガランと鐘がなる。
「特賞大当たりー!! 熱海ペア旅行券、出ましたー!!」
「は?」
 だがハッピを着た係員さんや順番待ちの人たちは拍手してくれた。

 何が起こっているかと言えば、福引である。
 お肉を買ったら、福引券がついてきたので、抽選会場に行ってガラガラを回したら大当たりが出た。

 商店街の福引。

 清酒やしょうゆ、みりんという微妙なラインナップ、そして一等がなぜか桐タンス。

 だが皆は長蛇の列で並び、福引券を握りしめ桐タンスを狙っているらしい。
 謎の多い町だ。
 
「うーん……」

 買い物袋片手に、特賞の旅行券を手にして悩む。

 一松さんと旅行☆

「無理無理無理、絶対に無理」

 理由を考えるまでもなく、否定の言葉しか出ない。

 六つ子がいるし、わざわざ一人と旅行に行く理由をひねり出すのも面倒だし。

 それならば。


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