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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い




 そうこうしているうちに、二ヶ月目も残り一週間となった。



 遠くでカラスが鳴いている。

「もう、どうすればいいんですか!」

 夕暮れの公園のベンチで頭を抱える。
 今日も午前中は家事、午後は研究所の片付けで終わってしまった。
 ああ、肩と腰が痛い。

 本当はもう少し早く取りかかるつもりであった。
 だが今日の昼。

 …………

 本日の昼、家事を終えて出て行こうとすると、一松さんが来た。
 ちょっとばかり照れたように、

『松奈。金が入ったから、今日はもう少し遠くに行かない?
 ちょっと良い喫茶店に入るとか……』

 いそいそとデートのお誘いだ。
 ニートだから、いつ何をしても自由。だが私は多忙!!
 とはいえデートのお誘いの断りは大変だ。まして一松さんだと後を引く。

 だが腐っても私の恋人、寄生先の実子、年上の成人男性。
 対応は丁重かつ敬意を忘れずに。ご本人が傷つかぬよう遠回しにお断りせねば。

『申し訳ありませんが、私は年間通してガラパゴスゾウガメのように暇な貴方と違って、多忙なんです。
 どうぞ私に構うことなく、負け確定のギャンブルに行ってお金を使い果たして下さい』

 不思議なことに、ものすごく怒られた。
 ついつい逃げ出したが追いかけられた。

『誰かお助け下さい!! 通りすがりの無職D○が、私をめった刺しにしようと!!』
『○Tじゃねえっ!!』

 毎日のように兄弟げんかをしているせいか、奴は意外に体力があるのだ。
 そしてついにどぶ川の手前まで追い詰められた。

『さぁて。金が入ったから、今日はもう少し高いホテルにでも行こうか』

 えええ!? 喫茶店じゃないの!? しかも昼間から!?
 だが奴の目は本気だ。顔に陰が入っている。
 そして追い詰められた私は、どぶ川を指さし、

『あ、一松さん! 子猫がおぼれてます!!』
『え!?』

 ああ、一松さん。根が優しいことがあんな悲劇を呼ぶだなんて!
 まさか子猫を助けにどぶ川に飛び込むだなんて!!

 ……絶対に私が何かしたんだろうって? とんでもございません。

 後ろから蹴りを入れて、どぶ川へのダイブを助けたくらいですよ?
 そして動揺のあまり、盛大な水しぶきを背に逃げて参りました。

 そういうわけで、私はとっさの機転により無職から逃れたのであった。

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