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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い



「もし約束を破ったら」
 指切りは効果なしでしたね。

「次は何をするか分からないから」

一松さんのよどんだ視線が私を貫く。
「ははははいっ!!」
 ホテルに連れ込むだけじゃ……すまないでしょうねえ。多分。
「じゃ、話はそれだけ」
 と言って一松さんが立ち上がる。

「一松ぅ~、話、終わった?」
 ふすまがそろ~っと開き、四人のD○が姿を見せる。
「ああ」
 そして一松さんは四男の顔に戻る。
 処刑場に引っ立てられる殉教者のごとく、一切の抵抗をしない。
「じゃ、ちょっと向こうでお話しをしようか」
 と凄まじい負のオーラが立ち上らせるのは、チョロ松さん。
 チョロ松さん。一番、まともな人……だったはずなんだけど。
 そして一松さんがご兄弟にこづかれつつ廊下の向こうに消えると、

「おそ松お兄さん?」

 おそ松さんが残っていた。
『あのさ』と、彼は私の前に片膝をつき、

「色々面倒な奴だけど、松奈のために何かしたいと思ってるのは本当だから。
 子猫になったときも一番心配して、昨日の晩も真っ先に飛び出していったくらいだし」

 ううう。罪悪感がグサグサと。

「気が向いたら話してくれると、長男の俺としては嬉しいんだけどな。
 俺たちだって、何かしたいと思ってるし」

 おそ松さんは立ち上がり、私の頭をポンポンと叩く。

「あんまりうちの弟で遊ばないでくれよ。ここまで夢中にさせといて、いなくなられたら、あいつ、壊れちゃうかもしれないしさ」
 
 …………。

 大人とは、一時の恋愛も大丈夫で、そう本気にはならないものだと思っていたけれど。

「そのうち、話します。多分」

 おそ松さんは笑ってうなずき、そして部屋を出て行った。

 そしてほどなくし、六つ子たちの部屋から盛大な悲鳴が響いたのだった……。



 午後の暖かい風が、私の髪を揺らす。
 縁側で座布団に座り、茶をすすり、疲れた身体を休める。

 いつか話すことが出来るんだろうか。
 博士が戻ってくる前、何の証拠もない状態で。
 信じてもらえるんだろうか。

 いや違う。

 話して、お別れを宣言する勇気が持てるのだろうか。

「あのさ、ちょっとは心配してよ……」

 足下の庭に転がっている、ズタボロな何かから話しかけられた気もする。

 が、私は青い青い空を見上げ、茶を飲み続けたのだった。


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