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【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】

第2章 神の初期刀・後編(加州清光、大和守安定編)




「……私の愛し方は、やはり刀たちに不安を与えているのかな。お前はどう思う、安定」
「……」


 泣き疲れてそのまま寝てしまった清光の頭を撫でてやりながら、緋雨は眼前の障子に滲む黒い影に声をかける。程なくして、単衣に薄い羽織をまとった安定が開いた障子の隙間から姿を現した。主君の前であることを考えてか、寝るためにほどいておいた髪をまた結わえ直している。


「清光を心配して来てくれたんだな。ありがとう」
「……別に。心配とかそんなんじゃないし」
「ふふ」


 安定の素直でないぶすくれた口調に、緋雨は可笑しそうに目を細める。視線を落とすと、きれいな白い肌を涙で真っ赤に腫らせた清光の顔があった。その痛々しい跡を、柔らかな黒髪を、生乾きの爪紅で汚れた小さな手を、硝子細工に触れるようにひとつひとつ、丁寧に撫ぜてやる。


「僕たちが主のことを覚えてないのは、主が僕たちを現世に引き下ろすときに、記憶に細工したからでしょ」


 唐突だった。再び顔を上げると、安定の群青色の瞳が真っ直ぐにこちらを見据えていた。先ほどの清光のように、ただ一心にすがり救いの言葉を乞うのではなく、嘘偽りを並べれば許しはしないという、ある種の脅迫をこめた瞳だ。


「僕たちは今は人間の体を得ているけど、それを作ったのは主だ。特定の記憶をそぎ落とすのだって、出来ない事じゃないよね」


 安定の言うそれは憶測にすぎないものだったが、確証がないわけでもなかった。そう、皆知っている。気づいている。分かっている。清光にとっては自分が愛されたいという即物的な欲求の方が大事、というよりそれがまず満たされなければ精神が破綻してしまうくらいのものだから今回のことは仕方ないのかも知れないが、そんなどうしようもない相棒でさえ気づいていたのだ。この男の内に居座る得体の知れない「何か」に。


 安定の言葉に、緋雨は自嘲するように寂しく笑った。そんな彼の笑みを誤魔化そうとしているものととったのか、安定は話を流されてたまるかとやや語気を荒げる。


「だっておかしいじゃん。岩融とか石切丸とか、主のこと覚えてる刀もいるのに、新撰組に使われてた僕や清光や、和泉守や堀川は覚えてないだなんて」


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