【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】
第2章 神の初期刀・後編(加州清光、大和守安定編)
そう、それが緋雨に疑惑を抱く一つの大きな根拠でもあった。彼は新しい刀剣を鍛刀した時、それが昔会ったことのある刀だと必ず「久しぶりだな」と言う。例外はないはずだから、つまりこの本丸にいるすべての刀剣が、自分が緋雨に以前会ったことがあるかないかを把握しているわけだが、「久しぶり」と声をかけられた刀剣はそこから更に二者に分かたれる。彼のことを覚えている者と覚えていない者だ。
勿論、過去に焼失などの憂き目にあい、そのせいで人の身を得ても一部記憶が曖昧になっている刀剣もいないわけではないが、それでもここまで明確に差が出ると何か作為的なものを感じずにはいられない。
おまけに緋雨を覚えている刀剣は皆、自分たちが見て、聞いて、知っているはずの彼の過去を語ろうとしない。聞かれれば答える者もいるが自ら進んで話すような者はいないし、またそういう話題を振られただけで殺気立つような者もいる。命じられたわけではなく、彼ら自身の意思でそうしているのだということは、何も知らない安定にも感じ取れるほど明白だった。
先ほど清光に言ったことはすべて惰弱な相棒をけしかける為のもので、安定の本音ではなかった。確かに彼は理想の審神者かも知れない。強く優しく慈悲深く、霊力も豊かだ。それが自分たち付喪神をそそのかす偽りの姿だとも思っていない。
けれど、いや、だからこそ知りたかった。常に平等に徹している彼が刀剣たちの間に格差を生み出してしまいながら、それでも頑なに隠そうとしている何かを。
そして彼を覚えていない安定がそれを知るためには、本人の口から聞くより他に方法はない。相棒を利用するようで目覚めは悪いが、今回のことはどうにか波風立てずに彼を問いつめる機会はないものかと考えていた自分にとってはまさに僥倖だったのだ。
「主は僕たちを自分の刀だとは思ってない。借り物だと思ってるんだ。いつかは返さなきゃいけないものだって。他人様のものなんだから、僕たちを大切に扱うのは当然のことだよね」