第2章 神の舌
そう言って周りの人達と同じように逃げ出した彼。瀬凪はそれを見送ることなく溜息を零した
「(随分意気地無しばかりなんですね……)」
店に出て働いていた瀬凪にとって料理を出せと言われて逃げるなどということは信じられないものだった。どんな理由があっても客から逃げるなんて許されることでは無い。それは恐らく創真も考えていることだろう。というよりも瀬凪にとってこれはチャンスだった。書類審査の時点で落とされるかもしれないというところで実技だけで済む。逆に彼女はホッとしていた。またもや考えにふけっていれば創真が薙切えりなと話しており自分もその会話に加わるべく足を進めた
色々とゴタゴタはあったが、何とか試験を受ける事が出来る。創真は既に何を作るのか決めたのか下拵えに入った。瀬凪は何を作るのかしばし考えた
「(恐らく創真は『ゆきひら』の料理で行く……彼女は私たちを見下している。だって彼女は)」
"料理業界底辺の味をね…!"
『ゆきひら』を馬鹿にした…!
「(それを反故出来るほど私は出来た人間じゃない…)」
瀬凪は包丁を手にした。すると彼女の周りの空気は確かに変わった。これには創真に目線を向けていたえりなも気づきギョッとしたように瀬凪に目を向けた
「(この子……!)」
正直えりなは瀬凪を気にしていなかった。その驚くべき絶対的な美貌には一目見た時見惚れたし、圧倒されたが、彼女がゆきひらであると知った時、結局は見掛け倒し、大したことは無いと思っていた。自身がどれだけ創真やゆきひらを馬鹿にしても表情一つ変えない彼女は大してゆきひらに思い入れはないのだと…勝手にそう思ってしまった。それが最大の間違いだと知らずに。実際はその逆でえりなの言葉に無表情の裏側で怒りを滾らせていた
素早い動きでニンニク、ネギなどの野菜を切っていく。コンロでは既に土鍋で米が炊かれており、瀬凪は米の煮える音を聞きある一瞬の音を聞いた瞬間火を強火にした。その間にフライパンを熱し胡麻油をひく。そこに切った野菜を投入。すぐに醤油を入れ焦がす。すると溶いた卵を入れる。一瞬だった。卵が空を飛ぶ。そしてすぐにフライパンからおろした