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不完全な『アダムとイブ』

第15章 終焉の懐時計


レイジが差し出したのは逆巻の紋章が入った懐中時計だった

「終焉の懐時計....魔界の呪物であり、私の父、カールハインツより齎された物です」

私は一時あの方がこの時計を身に付けていたのを思い出す

「これを私に?」

「えぇ」

「でも、これは貴方のお父様から頂いた物なんでしょう?そんな大切な物....」

彼の手の内は分かっていた、しかし私は彼の考えに興味があった

「この時計が指し示すものは、この世の終わり....私には必要のないものです。
しかし、有限の時を生きる人間には、自身の命の終わりの時間が見えるそうですよ
2つの血を持つ貴方ならば、どちらの時も見る事が出来るのでは無いですか?」

レイジは不敵に笑う

「この世の終わりと命の終わり....」

私は時計を指で撫でる

そして私はため息を零す

ーーーーカチャ

「なっ!!」

らんは何の躊躇いもなく懐中時計を開ける
少なからずレイジは驚いた


私は盤面を見る
綺麗に数字と針が施された時計には不思議と2つの盤面が見えた

この世の終わりと命の終わりーーーー


そして、カチッっとフタを閉じる

レイジは驚いた顔をする
彼は彼女が盤面を見るとは思っていなかった
何故なら....人は命の終わりを知れば、死への恐怖に耐えられないからだ
だが、彼女は容易く成し遂げ、平然と自分の前に立っている

「レイジさん。こんな物で私を堕とすのは不可能ですよ」

「....貴方は....平気なのですか?」

私は長い髪を耳に掛ける

「自分が終わる時くらい....ずっと昔に知っています....」

命は何れ尽きる....
レイジは彼女の事を少し甘く見ていた

(ふっ....この方は誰よりも人間らしく、ヴァンパイアらしいのかもしれない....)

「これはお返しします。私には勿体ない代物ですし....」

時計をレイジの手に置く

「えぇ....確かに貴方には必要のないものでした....」
完全に流されたにも関わらずレイジは歓喜に満ちていた

一方らんも笑顔を浮かべる

「私は少しレイジさんの事を勘違いしてました」

彼は何があっても必ず逆巻の..シュウの力になる存在だ..

「っ...全くおかしな人ですね」

レイジは、この時初めてシュウが彼女を傍に置いた理由が分かった気がした

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