第15章 終焉の懐時計
目を覚ますとコウは居なかった
鏡で首元を見るとアヤトに吸われた跡も痛みは無くなっていた
まぁ、その代わりにシュウが付けた紅い跡は少し残っているけど..
熱も少し下がっていた
こうゆう所はヴァンパイアの特質が関係しているのだろう
まだ朝早く、みんなを起こさないように廊下を歩く
すると、キッチンの扉が半開きになっていた
ルキかユーマどちらかだろうと思っていたが
部屋の中をのぞいてみると
そこには意外な人物がいた
「危ないよ!アズサ!」
「らん..?」
キッチンに居たのはアズサだった
そして、彼は必死に林檎を切ろうとしていた
「何か食べたいなら言って?私が切るよ」
流石に器用なアズサでも、包丁を持つのは危険だと思った
「..大丈夫だよ..俺がやる」
アズサは止める私を無視して、林檎に包丁を刺すが、思うように切れない
「俺が..自分で..やるんだ」
その言葉からは、腕を失ってしまった彼だけの決意がみえた
私は手を貸し、林檎を支えてやる
「これなら切れるよ」
「うん..!」
アズサは嬉しそうに次々と林檎を食べやすいサイズに切っていく
「これで、全部だね」
美味しそうな林檎が皿に乗る
「..これらんに..あげる」
アズサは林檎を私に渡す
「いいよ、せっかくアズサが頑張って作ったんだから」
アズサが必死に切っていた物を受け取ることは出来なかった
「うんん。ホントはこれ..らんに持っていく..つもりだったんだ」
「え?」
アズサは忙しい中でも私の体調を気遣ってくれていた
辛いのは彼も同じな筈なのに
「ありがとうアズサ。もう、大丈夫だよ」
「そっか..良かった」
アズサはホッとした表情を浮かべる
「これ、一緒に食べよ?」
私は林檎の皿をテーブルに置く
「うん....!」
1つしかない椅子をアズサに譲る
すると....
「らんも....座って?」
「わぁ!」
私はアズサに引っ張られ、彼の膝に座る
「なんだか、アズサに抱きしめられるのは久しぶりな気がする」
幼い頃とは違い逞しくなった彼に
やはり、男の子だなと実感した
「さぁ、食べて?」
口に入れた林檎は今までで一番水々しく、甘く感じられた
美味しそうに食べる彼女を見て耳たぶにキスを落とす
ーーありがとう..らん