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【イケメン戦国】短編集✲*゚

第1章 【織田信長】恋に揺蕩う





それぞれに、和紙でできた美しい包み。小銭と引換に受け取った信長様は、中身を確認することも無く、満足げに元きた路地を戻っていく。それに倣って、私も中身が気になりつつ、信長様の後を追い入り組んだ路地を歩く。

やっと大きな通りに出た所で、信長様がガサガサと包みを開いた。


「わ、金平糖! 」
「貴様のは何だ?」
「私のは、少し大きな…飴玉、ですね」

「ふむ、一つ寄越せ」
「あ、はいっ」


ガラス細工の様に透き通った飴玉を、信長様の長い指が一つつまみ上げ、そのまま口に運んだ。


「美味いな、今度からこれにするか…?いやしかし、口に含んでいてはすぐに秀吉めに気付かれるな…」


もごもごと口を鳴らしながら思案する信長様が可愛らしくて、くすくすと笑う。そして一つ、飴玉を口に放り込んだ。現代のそれとは違う、ほのかな甘味が口いっぱいに広がる。


「わぁ、ほんとだ!美味しいですね」
「そうであろう。彼奴の売る菓子は一級品だからな」
「そうなんだ…!あ、じゃあなんであんな路地の裏に…?」


信長様はくすり、と笑むと、すっと道の先を指した。


「あれを見よ」
「ん…家康…?」


道の先には、よく見知った顔。家康もこちらに気付いたのか、げっ、とわかり易く顔を顰め。形だけのお辞儀をするとそそくさと去っていった。


「今日は奴が当番らしいな。交代で見回りをしておるのだ」
「見回り…?何か、危ない事でもあるのですか?」
「この市は、自由な楽市。法の規制が緩やかな分、抜け荷も多い…この金平糖が、まさにそうという訳だ。砂糖は高級品だ、あんな所で手に入る筈も無い」

「えっ…!そんな物を、許して大丈夫なんですか?」


信長様は私の問いかけに、悪戯っぽく笑い、答えた。


「抜け荷とは言うが、あの主人はなにも悪事を働いておる訳ではない。順序を踏んで店を出すと場代がかかる、そこを抑えて安くしているのだ」
「なるほど…!だから信長様も、いつも一人で行かれているのですね?」

「秀吉などに見つかっては困るからな、親父には逃げ切って貰わんとならぬ」
「ふふ、信長様の秘密を知ってしまいました」
「…貴様、俺を脅す気か」


そこで顔を見合わす。耐えきれず、どちらともなく今日一番の笑い声を上げた。


「もう夕刻か。最後に向かう場所がある…急ぐぞ、千花」


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