第1章 流転
十三宮幸
「はあ…どうにか谷中湖から脱出できた。結達は一応大丈夫そうだから、次は仁さんを捜さなくては!恐らくは聖姉さんと一緒に、伊豆半島に避難している可能性が高いか?ここは禍津日原、伊豆までは少し遠いな…情勢も不明だし、とりあえず大牧先生に相談しよう」
四校保健室には、一見すると若そうな、どこか不思議な雰囲気の女性が搬送された。大牧らのほか、教え子の日向風信(ひむかし まこと)・天河瑠璃(てんが るり)なども、興味本位で様子を見に来た。
相賀"オナー"誉
「…」
大牧実葉
「あら、意識が戻ったみたいね。初めまして、お名前は?」
相賀誉
「…相賀、誉…」
相賀誉(あいが ほまれ)、それがこの年齢不詳の女性の名前だと言う。
間宮歩
「とにかく、無事で何よりですね。状況も情況ですし、当面はここで預かりましょう」
相賀誉
「貴方達は何者?と言うか、どこの国の人?未開人?」
雪花晴華
「失礼な!日本人に決まってるじゃないですか。私達は、クレーターのど真ん中で気絶してたあなたを、助けてあげたんですよ?」
相賀誉
「『日本』…懐かしい響きね。貴方達は復古主義者かしら?」
先刻まで昏睡状態にあったとは思えない程(ほど)、相賀の口調は冷静で聡明だった。どうやら記憶喪失ではないらしい。だが、彼女の発言はどこか変だ。
日向風信
「復古も何も、ここは日本帝国ですから」
相賀誉
「これは失敬。どうやら皆さん、本格的に亡命政権の人みたいね。滅んだ国の人民を称するなんて」
天河瑠璃
「あ…あの、今…日本がどうなったと言いましたか?」
相賀誉
「今更何を言っているの?『日本』なんて国は、とうの昔に滅んだわ。ここは『敷島共和国』よ」
大牧実葉
「…なんですって?」