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RISORGIMENTO

第3章 覇道の一里塚 上篇


 ―甲斐 山中―


 一行は天変地異で未だ政情治安共に不安定な世情を考慮して教諭の個人的なツテでバスを用意し渋谷の七宝院から出発していた。

 突然、「緊急特別合宿」を企画し、全て一人で計画した教諭 樹下進の行動力に、引率されている渋谷七宝院学園地学部部長 星河亜紀、同部員 高瀬川湊、瀬田椿の3名は只々驚いていたが、どの教員も―嘆かわしい事に顧問の海棠雄也までもが―この天変地異を理由に課外活動を禁じていた事に不満を募らせていた部員達にとって、教諭からの提案は願ってもない好機だった。チャーターされたバスに守られて、地学部員達の課外活動は始まった…のだが。

「えー、この甲斐にはですね、『甲斐の黒駒』というですねぇ、ナリタでブライアンな、物凄いサラブレッドがいたという伝説がありまして~!」

 この妙にテンションの高いバスガイド(背格好並びに顔身体など、地学部員と同年代としか考えられない) の女と、

「ネタが古くてわからんぞ、田舎者。しかも、黒駒の時代にサラブレッドなんていてたまるか。それより同じ黒駒なら、『黒駒勝藏』の話でもしてやれ。特に最期の締めの所を、な。…笑えて、且つ良い情操教育になるぞ」

 といちいち茶々を入れては物騒な話ばかりする、運転の適当(荒い)なバス運転手。こいつら一体何なのだろう?瀬田椿は訝しんで様子を見ていた。

 どうやら、樹下の予定にこの二人は入っていなかった。樹下の計画を手伝ったツテが用意したらしく、バスに乗り込んだら既にこのペアがくつろいでいた。バスガイドの女曰く「バス合宿のオプション」らしい。随分と小煩いオプションね、と溜息の代わりに星河亜紀は呟いていた。しかも、特に厄介なのは彼らが所謂「敷島人」であるという事だ。「敷島人」と「日本人」があの天変地異以来どのような付き合い方をしているかを知らないわけではない。そのような事情は当の「敷島人」とて理解していようものなのだが、この煩いオプション達はそんな事はお構いなしに冷めた目で自分達を見詰める4名に名刺を押し付けて来た。椿が貰った名刺には、

「あなたに幸せお届けします 中浦綾香」

「心の隙間お埋めします   九戸余一晴政」

 と名が記してあった。どう考えても信用ならない。
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