第3章 覇道の一里塚 上篇
総大将 鹿瀬の問いに、誰も何も言わなかった。異存なし。無言のままに意は示された。
「各隊に速やかに下知せよ。これより直ちに発向し、長島へ攻め入る。焼討、刈田狼藉の類は各々の判断に任せる。好きにやって構わん。以上だ」
応っ!そう相槌を打って3名は兵の元に戻った。
駅舎から慌ただしく3騎の足が出て行き、そこに居るのは鹿瀬だけとなっていた。
鹿瀬はダイヤ表から目を離し、駅舎の入口へ向き直った。
「鬼浦。兵共に報せろ。『食事の時間だ』と」
「承知!」
鉄狼衆の副将 鬼浦十内堯家 騎兵惣目付は駅舎の入口で待っていたが、漸く出陣の時を得て内心喜んでいた。野晒しで駅前にたむろしているのを嫌っていたからである。朝飯を敢えて喰わさずに出陣させた事で兵達は内心空腹を満たしたくてうずうずしていた。なお、赤羽は今無政府状態に近い状態である。早く行って、早く殺し尽くせば、その分喰えるだろう。鹿瀬はそれを考えた上で、自身も飲まず喰わずで出張って来たのだ。
法螺貝の音が四つ聞こえた。鹿瀬は両の手をポケットに突っ込んだまま、駅舎を出た。まだ暗く、夜が明けるまでは時間があった。夜が明け、人々が朝の営みを始める頃には、粗方の始末は付けられる。鹿瀬はそう思っている。