第1章 流転
禍津日原では、西宮総督が「敷島人」上野正斉(うえの まさなり)らと会談し、この地域の守備隊として、友軍へと取り込む事に成功していた。
その日の深夜、総督府の特務機関「AB団」から、関東で目撃されたという航空機事故の情報が届いた。機体は異世界の物と推測され、墜落場所もほぼ特定できた。搭乗者が「敷島」の要人ならば、これを逃す手はない。西宮総督は落合司令官に命じ、直ちに十三宮勇(青鳥)達から成る捜索部隊を編成した。同時に青鳥は、禍津日原総督府基地駐屯軍から、東京旅団本隊への転属を命じられた。これから始まるであろう戦争において、彼女とその愛機は、クレーターに置き放すには惜しい存在なのである。
果たして青鳥は、墜落機を発見した。遺体は見当たらない。ベイルアウト脱出に成功したのであろう。そう考えながら振り向くと、奥に女性らしき「人影」の姿が見える。ただ人が居るというのではない。人の形をした、漆黒の「影」だ。
青鳥は十三宮聖の双子の妹であり、十三宮の血を宿す「特殊能力者」である。そんな彼女は当然、戦場において比類なき活躍を示し、それこそが軍に召された理由である。
青鳥の「眼」には、確かに見えた。「人影」を彩る、深い闇を。まるで…太古に滅んだ一族の怨霊を彷彿とさせる、情念の塊を。
十三宮勇
「『魔女』と遭遇するなんて、『前世』以来久しいわね…」
愛用の銃剣で警戒しながら、「人影」に一歩ずつ近付いて行く。そして、銃剣の刃が届く距離まで至った所で、一応信用の証に武器を地に突き刺し、同時に精神の集中を極限にまで高め、それを問われた者は絶対に回答しなければならない、縛り付きの言霊を発した。
十三宮勇
「…称しなさい。あなたは、誰?」
その刹那、周囲に雷光が轟(とどろ)き、「人影」を覆う闇を一瞬で奪い去り、代わって姫君の如く美麗な女人が姿を顕した。
サト "テレジア" アオバ
「サト アオバ」