第1章 流転
こうした中で、この異変をも自らの野望に利用し、「日本人」と「敷島人」との軍事的提携を、真っ先に成し遂げてしまった謀略家が関西に居た。畿内摂津は石山大坂城、彼女の名は「方広院(ほうこういん)」近衛和泉(このえ いずみ)。
藤原近衛"方広院"和泉
「さて、敷島之国よりゐらした方々。我等『豊臣家』は、貴方々を歓迎致します。先づ最初に申し上げますが、私達にとつて、然して貴方々にとつて、御互ひが一体何者であるか、況してや世界が云々と言つた事柄は、どうでも良いのです。開眼為可きは、私達と貴方々の利害が一致為るのか、其の一点に限られます」
方広院こと近衛和泉は、表向きは比叡山の尼僧だが、「言ノ葉学園」にて文学(と呪術)を究めた後、豊臣秀国(とよとみ ひでくに)・羽柴秀為(はしば ひでため)・三好秀俊(みよし ひでとし)ら近畿の群雄を操り、自身に宿る「言霊」の力をも駆使して支配地域を広げ、東京政府に真っ向から対峙する右翼的独立勢力、通称「畿内軍閥」の黒幕に成り上がった人物である。そして今度は、異世界の者達をも掌握しようと画策し、敷島共和国立法院議員の朝倉家景(あさくら いえかげ)・那須資政(なす すけまさ)や、幕府海軍提督の大関増広(おおぜき ますひろ)らを招いていたのである。
方広院
「江戸の者達は、血統の怪しき偽の帝を祭り上げ、欧化主義に執着して神佛を穢し、覇道を以て私達を従えやうと為てゐます。越前も下野(しもつけ)も、元より山城とて、例外には御座いません。同心為る他選択は無いと思ひますが、如何でせうか?」
朝倉"小太郎"家景
「御厚意、感謝致します。速やかに立法院で発議し、あわよくば共和国政府への建白にも尽力致します」
方広院
「大儀です。狸…ではなく、徳川様に宜しく御伝へ下さい。それから、大関殿」
大関増広
「はい?」
方広院
「江戸は、鎮西(ちんぜい)と連携為ながら兵達を進めてをり、読み通りならば、挟み撃ちに参るでせう。同盟成立の折には我が海、大坂湾・木津川口を御自由に御使ひ下さいませ」
大関増広
「承知」
方広院
「海と言へば…伊勢湾の方も気に成りますね。秀為殿・秀俊殿、直ちに調べて参りなさい」