【ハイキュー!!】Assorted Box 短編集
第11章 初詣 (及川 徹)
side 皐月 和奏
これは私の高校入学の少し前、初詣のお話。
お正月と言っても受験勉強に追われる私を、気分転換も必要だと日付が変わる夜中に神社へ連れ出したのは、幼馴染の徹だった。
「和奏、はぐれないように手繋いでよう。」
お詣りのために列をなす人混みの中で、徹はそう言って、慣れたように自分の右手と、私の左手の手袋を外すと、宣言通りに手を繋いで、2人分の手を自分のポケットに入れてから、満足そうに微笑んだ。
さすが、自慢の幼馴染だけあってカッコいいと思う。
学校には既に卒業しているにも関わらず、根強く徹のファンクラブがあるが、それも納得だ。
今だって…。
徹の家族は年末年始で親戚の家に行くと聞いていたけど、徹はこうして、ここに残っている。
バレーの練習があるから…とは言っていたけど、私が1人で年を越さなくていいように気を回してくれたのかもしれない。
「ありがとう、徹。」
「こちらこそ。俺がこうしてたいだけだから。」
お礼は手を繋いでくれてる事にではなかったのだけど…まぁいいか。
何にしても、徹は本当に優しい。
その優しさをもう少し彼女に使ってあげればいいのに…と本気で思う。
過去に何度か徹に彼女が出来たのは知っているが、普段の徹からは考えられないくらいに接し方がドライだ。
理由を聞くと「しつこく言われて付き合っただけだから。練習にもならなかったけどね。」と言っていた。
練習台前提で付き合うなんて…。
いつか、徹が夢中になるような彼女が出来ればいいなぁ。
あとで、神様にお願いしてみよう!
「あっ、もうすぐ日付変わるよ!」
周りの人達が携帯電話片手にカウントダウンしている様子で、私も慌てて時間を確認する。
新年まで10秒を切っていた。
「本当だ。4…3…2…1…明けましておめでとう、和奏。」
「おめでとう、徹。今年もよろしくね!」
新しい年が始まった。
「任せときなよ。和奏が春から青城に来たら、学校の事も、部活の事も、勉強も俺がまとめて教えてあげるからさ。」
爽やかな笑顔でそう言われると、少しだけ後ろめたい気持ちになる。