【ハイキュー!!】Assorted Box 短編集
第8章 2年の空白の終わり (黒尾 鉄朗)
side 黒尾 鉄朗
あと数ポイントで勝利が決まる。
試合中のそんな瞬間、観客席にチラリと意識を向ける。
…また来てる。
別に試合に集中していないわけではない。
俺的にはむしろその逆で…観客の中から彼女を見つけるのは願掛けみたいなもんだ。
なんつーの?勝利の女神…的な?
観客席の後ろの後ろ。
わざと目立たない様な格好で、声だって出すことはないけど、ただ真剣にコートを見守ってる…俺の元彼女だ。
「黒尾!」
大切な局面で観客席なんて見てる俺に夜久君から怒声が飛んでくるが、何の問題もない。
むしろ、今すげぇ集中出来てる。
「クロならたぶん…大丈夫。」
何も答えない俺に変わって研磨が夜久君を取り成してくれている。
彼女…皐月 和奏と付き合ったのは中2の冬頃で、別れたのは高1の…たぶん夏頃。
付き合い出したきっかけはクラスメイトの幼稚な冷やかしだった。
周りからからかわれて、意地になって「皐月、俺と付き合うか?」って聞いたら、彼女が真っ赤な顔して頷いたんだ。
和奏はただ流されただけかもしれない。
それでも、ずっと和奏が好きだった俺は凄ぇ嬉しかった。
俺にとっては和奏は初めての彼女だったし、和奏にとっても俺は初めての彼氏だった。
下の名前で呼ぶ事も、一緒に下校する事も、電話で話す事も、手を繋ぐ事も、キスも…どれも和奏との思い出はドキドキと心臓が破裂しそうな緊張感と一緒だ。
俺も…若かったんだな。
思い出すのが恥ずかしくなってきた。
別々の高校に進学するけど、俺たちは大丈夫だって…そんな保証もない自信を持て余していた中3の冬。
とにかく和奏が好きだった。
春が来て高校生になると、お互いの環境は激変した。
勉強に、部活に、新しい友人たち。
どんどん相手に対して知らないことが増えていって、それを一々説明するのも勿体無いくらい忙しかった。
あの時、時間を惜しまなければ…俺たちはどうなっていたんだろう。
気付いた時には、毎日欠かさずに取っていた連絡が3日おきになり、1週間おきになり、1ヶ月ぶりに連絡してみたら返信が来なかった。
あぁ…これって自然消滅ってやつか。
そう思ったのは夏の頃で…俺は部活の合宿なんかも重なって…って、何の言い訳にもなんねぇな。