第10章 リードブロックとゲスブロック
「ゲス、ブロック……」
「うん。予想して、思い込みで飛んだ感じカナ」
よくある天童くんの言い回しで突拍子もないことのように感じたけど、私が牛島から逃げ出したことを例えているようだった。
「ちゃーんと若利クンの動きとか気持ちを見てさ、それから落ち着いて飛んでたら遠回りしなくて良かったんでないの?」
遠くの噴水を見つめてた天童くんが私の顔を見つめる。口元は笑っているけれど目は全然笑っていないのが分かる。そして、天童くんが何を言おうとしているのかも分かってしまう。
「…それでもさ。おとりに引っ掛かったり、ツーだったり。バレーでも難しいもんネ。人の気持ちだったら尚更落ち着いてなんか見てらんないのも分かるヨ」
天童くんの右手が私の頬に添えられる。指先でソッと優しく撫でながら天童くんは言葉を続けた。
「…俺さあ、珍しくリードブロックしちゃってたんだ。なつみちゃんも若利クンも動かないのを見てサ。なんだ二人とも何も動かないなら行ってみるかーって。二人の動きを見ながら後手後手で動いてた」
天童くんの手はいつも通りひんやりしてる。私はこの感触が大好きだった。長くて綺麗な指。大事そうに触れてくれるその手が大好きだった。
「天童くん…」
「…分かってる。その思考に陥った時点で俺の負け。それに、俺自身の賭けにも負けてる」
「賭け?」
「…前に言ったの覚えてる?インハイレギュラーに入ったらお願い聞いてもらうってやつ」
「うん。覚えてるよ」
ふと天童くんが頬から手を離して溜め息を吐いた。
「…レギュラー入ってたら何か変わってたカナー…」
「天童くん…」
何を、お願いするつもりだったんだろう。今となってはもう聞いてはいけない気がした。
「気にしないで。もともと若利クンのこと好きなの分かってて俺が一方的に告ったんだし。それに、まだ俺ら高校一年生ヨ?逆に今フッてくれて良かったなーって思ってるヨ」
ね?って笑いかけてくれる天童くんを直視できない。溢れる涙を我慢できなくて私はとうとう下を向いた。目に溜まった水分がボタボタと制服のスカートに落ちてゆく。
「あー、ごめん!俺が悪いよネ!なつみちゃん泣かないで!あー…若利クン、若利クン呼ぼっか!」
「……呼ばなくていいから」
ねえ天童くん。私ね、付き合ってるとき本当に幸せだったんだよ。