第1章 これからもずっと
「そうか?俺はただ、本当に困っているのならば周りの誤解を解くべきだと思ったのだが」
…実に牛島らしい発想だ。私に迷惑が掛かってないかを心配してくれてたのだろう。なんだか少しだけ残念な気持ちになった。…ってあれ、なんでだろう。
「大丈夫だよ。私達の様子見てたら、みんなすぐにただの友達だって分かってくれると思うし」
「…そうか」
牛島は安心したような笑顔で頷いていた。やっぱり牛島には恋愛とかって似合わない。私の中ではずっとバレー仲間みたいなものだから。
「…若利くん、分かってる?それって俺のモノじゃないって宣言だヨ?なつみちゃんに彼氏できても文句言えないんだからネ?」
天童くんはそう言うと私の前に屈みこんで顔を近付けてきた。
「えっ…」
「…ご馳走サマ」
唇のすぐ横に付いてたクリームを舐めとられた。さっき食べてたカップケーキに付いてたやつだ。とっさの出来事に私も牛島も瀬見くんも、周りにいた男バレ部員、女バレ部員もみんなが息を呑む気配がわかった。
「若利くんには何も言う権利ないから…ネ?」
「…~~~~!!!!」
あまりに急な出来事に、顔を真っ赤にすることしかできない。ずっとバレーしかやってこなくて、男の子にこんなことされた経験なんてない。ただただ恥ずかしくてだんだんと涙目になってくるのが自分で分かる。どうしたらいいのか全く分からずに思わず牛島を見上げる。
「…天童。緑川を困らせることをするなと、さっき言ったばかりだが」
「こういうのが嫌なら自分でなつみちゃんを守ってあげなヨ。俺はもう遠慮しないからネ」
…どうしよう。なんかよく分からないけど牛島を取り巻く空気が重くなっていくのを感じる。こういうノリは牛島も苦手なはず。なんとか牛島と天童くんを離さないと。
「牛島。私、大丈夫だから。ね?」
「…お前はこういうことをされても大丈夫なのか」
大丈夫なわけあるかい!本当はそうツッコミたかったけど、今はこの二人を離すことが先決だ。同じチームメイトのくせに歓迎会で揉めるのはやめて欲しい。
「…ほら、あっちにローストビーフあるよ。牛島好きでしょ、早く行かないと無くなっちゃうよ」
「…緑川の分も取ってくる。そこで待ってろ」