第6章 奪ってもいいか
優しく唇を食まれ、お互いの感触を味わうようにキスをされる。だんだん動きが急いてきて、牛島の舌が口内に入りたがっているのを感じる。
「……緑川、もっとキスしたい」
いつもよりグッと低い声で囁かれ、その甘い言葉に私の理性は崩壊した。返事の代わりに口をそっと開き、力の入らない瞳で牛島を見つめる。
「……奪ってもいいか」
「……え?」
そう言うや否や牛島の舌が私の口内に侵入してきた。少しだけスポーツドリンクの味がする。さっきまできっと飲んでいたんだろう。その甘さが私達のキスを自然と深いものにしていく。
「お前にもっと触れたい……俺のものにしたい」
キスの合間に言われた言葉に、私は思わず涙を溢しそうになった。私も牛島のものになりたかった。ううん、今からでも牛島のものにして欲しい。やっぱりこうして近くで接すると、牛島とちゃんと向き合いたいという気持ちが沸き上がってくる。
「牛、島、私も――――」
「…悪い。お前には天童がいるのにこんなことを」
急に肩を掴まれて牛島から離される。離さないで欲しいと、そう言えばいいのかもしれないけど牛島は私の顔を見ない。
「……どうかしていた。すまない、俺はもう戻る」
「牛島っ……」
牛島はそう言うとすぐにドアまで行き、外に出ていってしまった。心臓はバクバクしていて思考は停止する。あまりにも衝撃的な出来事に頭がついていかない。
「……やめるなら、最初からこんなことしないでよ」
牛島に求められたことが嬉しくて心も体も悲鳴をあげている。温もりは天童くんが満たしてくれるけど、心はどうしたって満たせない。分かってたつもりだけど現実を叩きつけられるとやはり辛い。
私はこの後の練習メニューを淡々とこなし、なるべく牛島のことを考えないようにした。とにかくバレーに集中するんだ。集中しなきゃと思っているのにチームメイトのトスを呼ぶ声だってまともに拾えていない。
この合宿中、私は初めて練習試合のメンバーから外された。コーチからは「お前らしくもない、どうした?」と心配されたけど、どうもしない。天童覚と付き合っているのに牛島若利とキスしてしまって悩んでるなんて誰にも言えないし言いたくもない。