第6章 奪ってもいいか
結局男バレの食事時間は女バレの2時間も後だった。食事を済ませた女バレ一年生は配膳係となって、食堂入口付近で男バレ部員の到着を待つ。
「…みんな悪いな、早く休みたいところ申し訳ない」
そう言ってくれたのは男バレ三年生の主将さん。天然の薄茶色のサラサラ髪が恰好良くて女子から絶大な人気を誇っている。そんなフェミニンな雰囲気からは想像もできないぐらい男気溢れる人で実はキレるととっても怖いんだけどね。
声を掛けられたチームメイト達はキャーキャーと喜んでいて、主将さんもニッコリ笑ってくれている。キツイ100本サーブの後だというのになんという爽やかさ。やはりうちの男バレは怪物揃いなのかもしれない。
私達は食器に食事を盛り付けてそれを各自取りに来てもらうスタイルなので、次々と三年生が列を作る。高岡さんは流石としか言いようのないくらい全員の体調をピタリと当てながら「後でテーピングしに行きますね」など声を掛けながら盛り付けている。
「…緑川も駆り出されていたのか」
そんな三年生レギュラーの後ろからヒョッコリ現れたのは牛島だった。そりゃそうか。今レギュラーの練習が終わったところなんだもんね。
「うん、気にしないで。女子は今日基礎練だけだっだし」
「…すまない」
「牛島が謝ることじゃないでしょ」
なんだかいつもより元気がなくて疲れている表情が気になって、私はスープを多めに盛り付けた。ちゃんと食べて牛島が明日から元気に練習できますように。
「…お前から食事をもらうと、旨そうに見えるな」
「え?」
フッと笑いながら溢した言葉が牛島らしくなくて思わず聞き返してしまう。しかし牛島は既に次のメニューの列に移動していた。
『どんな堅物だって、合宿中は気が緩んじゃうかもってこと』
リカコの言っていた言葉が頭をよぎって心臓がうるさくなる。私は天童くんのことだけ考えていたいのに。あとで天童くんにLINEしよう。少しだけでも忘れさせて欲しい。あんな些細なことで牛島は私の意識を全て持っていってしまうから。